- フリーランス保護新法により、業務委託の発注時に取引条件を書面または電磁的方法で明示することが義務となり、口頭・チャットのみの発注は法律違反リスクがある
- 受領日から60日以内の報酬支払いが義務化され、クライアントからの入金を待って支払う慣行や意図的な検収遅延は禁止行為に該当する可能性がある
- ハラスメント相談窓口の整備・育児介護への配慮義務も課されるため、契約書の改訂・社内周知・支払いフロー見直しを2026年7月までに完了させることが急務
フリーランス保護新法とは?Web制作会社が知るべき基本概要
2024年11月に施行されたフリーランス・事業者間取引適正化等に関する法律(通称「フリーランス保護新法」)は、2026年7月1日をもって完全施行の節目を迎えます。特にWeb制作・デジタル支援を手がける企業にとって、フリーランスのデザイナー・エンジニア・コピーライターとの業務委託取引は日常的なものであり、同法への対応は経営上の喫緊の課題です。
本法の目的は、個人で働くフリーランスが発注事業者との取引において不当な扱いを受けることを防ぎ、安定した就業環境を整備することにあります。違反した場合は行政指導・公表・勧告・命令といった行政処分の対象となるため、「知らなかった」では済まされません。
Web制作会社がとりわけ注意すべき3つの義務を以下で詳しく確認していきましょう。
【義務1】書面または電磁的方法による取引条件の明示
フリーランス保護新法では、業務委託を行う際に発注事業者が取引条件を書面または電磁的方法(メール・クラウドサービス等)で明示することを義務づけています。口頭での依頼や簡単なチャットのやり取りだけで業務を進める慣行は、法律違反となるリスクがあります。
明示が必要な主な記載事項
以下の項目は、業務委託の開始前または開始と同時に明示しなければなりません。
- 業務の内容・範囲
- 給付を受領する期日(納品受領日)
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注事業者・フリーランスそれぞれの氏名または名称
Web制作の現場では、仕様変更や追加作業が発生しやすい性質上、当初の合意から内容が変化することが多々あります。変更が生じた場合も、その都度書面または電磁的方法で条件を更新・再明示することが求められます。プロジェクト管理ツール上に条件変更の記録を残すだけでは不十分なケースもあるため、契約書や注文書の整備が不可欠です。
【義務2】報酬支払期日の設定と遵守
同法は、フリーランスから給付(成果物・役務)を受領した日から起算して60日以内に報酬を支払うことを義務づけています。これは下請代金支払遅延等防止法(下請法)の考え方を個人フリーランスにも拡張したものです。
Web制作会社が陥りやすいケース
クライアントからの入金を待ってフリーランスへ支払うという、いわゆる「入金後払い」の慣行は、60日ルールに抵触する可能性があります。クライアントへの請求サイトが長い場合でも、フリーランスへの支払いは受領日から60日以内に行わなければならず、自社のキャッシュフロー管理の見直しが求められます。
また、検収を意図的に遅らせることで支払期日を引き延ばす行為も禁止行為に該当します。納品受領のルールを明確化し、不合理な検収遅延が起きない運用フローの整備が重要です。
【義務3】ハラスメント対策・育児介護への配慮義務
フリーランス保護新法が従来の取引関連法と大きく異なる点の一つが、就業環境整備に関する義務を定めていることです。具体的には以下の2点が求められます。
ハラスメント相談体制の整備
フリーランスがハラスメントを受けた場合に相談できる窓口を設置・整備する義務が発注事業者に課されます。社内の正社員向けハラスメント相談窓口があっても、フリーランスが利用できない状態では不十分です。外部委託先のフリーランスも相談できるよう、窓口の案内を業務委託契約書や発注書に明記するなどの対応が必要です。
育児・介護への配慮
フリーランスから育児や介護を理由とした申し出があった場合、発注事業者は必要な配慮を行う努力義務を負います。納期や業務量の調整について柔軟に協議できる体制を整えておくことが望ましいでしょう。
Web制作会社が今すぐ着手すべき実務チェックリスト
2026年7月1日の完全施行に向け、以下のチェックリストで自社の対応状況を確認してください。
契約・書面管理の整備
- □ フリーランスへの発注時に必ず書面または電磁的方法で取引条件を明示しているか
- □ 仕様変更・追加作業が発生した際に条件変更を書面で記録しているか
- □ 業務委託契約書のひな形を法律要件に沿って見直しているか
- □ 注文書・発注書に報酬額・支払期日・業務内容が明記されているか
支払いフローの見直し
- □ 受領日から60日以内に支払いが完了するよう請求・支払いサイクルを設定しているか
- □ クライアントからの入金を待たずにフリーランスへ支払える資金計画があるか
- □ 検収プロセスに不合理な遅延が生じていないか
ハラスメント・配慮体制の確認
- □ フリーランスが利用できるハラスメント相談窓口を設置・案内しているか
- □ 社内担当者がフリーランス保護新法の内容を把握しているか
- □ 育児・介護に関する申し出への対応フローを定めているか
下請法との関係と適用範囲の整理
フリーランス保護新法と下請法は、適用対象が異なります。下請法は資本金要件に基づき適用される一方、フリーランス保護新法は「従業員を使用しない個人」または「個人に近い形態の法人」を相手方とする取引に幅広く適用されます。
Web制作会社が「下請法の対象外だから問題ない」と判断していたフリーランスとの取引が、新法では規制対象となるケースが増えます。取引先の属性を改めて確認し、対応が必要な取引を洗い出す作業が重要です。
なお、フリーランス保護新法が適用されない場合でも、独占禁止法上の優越的地位の濫用規制は適用され得ます。法令遵守の観点からは、すべてのフリーランスとの取引を公正・透明に行う体制を整えることが長期的なリスク管理につながります。
契約書整備の具体的な進め方
実務対応において最も優先度が高いのが、業務委託契約書・注文書のひな形の整備です。以下のステップで進めることをおすすめします。
ステップ1:現状の契約書類を棚卸しする
現在使用している発注書・契約書・覚書の類型をすべて洗い出し、法定記載事項が網羅されているか確認します。
ステップ2:法定記載事項を追加・修正する
不足している記載事項(支払期日・受領期日・報酬額等)を追記します。あわせてハラスメント相談窓口の案内を契約書に盛り込むことも検討しましょう。
ステップ3:電磁的交付の運用フローを確立する
メールやクラウドサービスを使った電磁的交付を行う場合、フリーランス側が内容を確認・保存できる形式で送付することが求められます。送付記録を自社でも保管するフローを定めてください。
ステップ4:社内周知と定期的な見直しを行う
営業・ディレクター・経理など、フリーランスとの取引に関わる全部署に対して法令対応の内容を周知します。また法令の解釈指針は随時更新されるため、厚生労働省・公正取引委員会の情報を定期的に確認する体制を整えることが大切です。
まとめ:2026年7月完全施行前に対応を完了させる重要性
フリーランス保護新法への対応は、単なるコンプライアンス上の義務にとどまりません。フリーランスのデザイナーやエンジニアとの信頼関係を強化し、優秀な外部人材と継続的に協力できる環境を作ることは、Web制作会社の競争力向上にも直結します。
2026年7月1日まで残り約半年となった今、契約書の整備・支払いフローの見直し・社内体制の構築を早期に完了させることが、リスク回避と事業継続の両面から不可欠です。「後でやればいい」という先送りが、行政処分や取引先との信頼損失を招く可能性があることを忘れてはなりません。
自社の対応状況に不安がある方、契約書の見直しをどこから手をつけるべきか迷っている方は、ぜひ専門家への相談を検討してください。
フリーランス保護新法対応のご相談はSOAへ
SOAでは、Web制作・デジタル支援事業者様の業務委託契約や社内体制の整備に関するご相談を承っております。法令対応の観点からWebサイトや業務フローを見直したい方、まず何から着手すべきか確認したい方は、お気軽にお問い合わせ・ご相談ください。