- 2026年7月1日にフリーランス保護新法が完全施行され、発注企業には書面による取引条件の明示・60日以内の報酬支払・30日前の契約解除予告など7つの義務が課される
- KPIと報酬を連動させる契約では、発注時の書面に算定ロジックを明記しないと「報酬減額」の禁止規定に違反するリスクがあり、副業人材・単発案件・クラウドソーシング経由の発注も法律の対象となる点を見落としてはならない
- 対応は「現状把握→ギャップ分析→社内展開→運用定着」の4フェーズで進め、契約書改定や支払フロー見直しと同時に発注書電子化・KPI管理システム整備などの業務DXを組み合わせることで、優秀な外部人材から選ばれる発注企業へのブランディングにもつながる
はじめに|2026年7月1日、フリーランス保護新法が完全施行される
2023年4月に成立した「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(通称:フリーランス保護新法)は、2024年11月に一部施行が開始されました。そして、2026年7月1日をもって完全施行を迎えます。
この法律は、フリーランス(個人で業務を受託する特定受託事業者)と発注企業(特定業務委託事業者)の取引を公正化することを目的としており、違反した場合には行政指導・勧告・公表といったペナルティが科される可能性があります。
「うちはフリーランスをほとんど使っていないから関係ない」と思っている企業も少なくありませんが、業務委託・外注・副業人材の活用形態によっては広く適用対象となるため、今から体制整備を進めることが不可欠です。
本記事では、完全施行までに企業が対応すべき義務内容・KPI設定への影響・契約書の見直しポイントを体系的に整理します。
フリーランス保護新法とは|制定背景と対象範囲
法律が生まれた背景
日本国内のフリーランス人口は近年急増しており、内閣官房の調査では広義のフリーランス人口が約462万人に達するとも言われています。一方で、不当な報酬の減額・一方的な契約解除・ハラスメントなど、取引上の不公正行為が多数報告されてきました。
従来の下請法は「個人」を対象外とするケースが多く、フリーランスは法的保護の空白地帯に置かれていました。フリーランス保護新法はこのギャップを埋めるために制定されています。
適用対象となる「特定受託事業者」と「特定業務委託事業者」
法律上の主な用語と定義を整理します。
- 特定受託事業者(フリーランス側):従業員を雇用せず、業務委託を受けて事業を行う個人または法人
- 特定業務委託事業者(発注企業側):従業員を1名以上雇用する個人または法人であって、フリーランスに業務委託を行う者
注意すべきは、受注するフリーランス側が「従業員ゼロ」であれば適用されるという点です。個人事業主はもちろん、一人社長の法人(マイクロ法人)も対象となります。
完全施行で何が変わるか|7つの義務と禁止事項
①書面等による取引条件の明示義務
業務委託を行う際は、発注時に以下の事項を書面またはメール・チャット等の電磁的方法で明示しなければなりません。
- 業務の内容
- 報酬の額
- 支払期日
- 発注事業者・フリーランスの名称
- 業務委託をした日
- 給付(成果物)の内容・受領期日
口頭のみでの発注は法律違反となります。既存の口頭慣行がある取引はすぐに見直しが必要です。
②報酬支払期日の設定義務(60日以内)
フリーランスが成果物を納品した日から起算して、60日以内に報酬を支払うことが義務付けられます。支払サイトが長期に設定されている企業は要注意です。
③禁止行為(不当な取引制限の禁止)
継続的業務委託(同一フリーランスへの委託期間が1ヶ月以上の取引)では、以下の行為が明確に禁止されます。
- 受領拒否
- 報酬の減額
- 返品
- 買いたたき(不当に低い報酬の設定)
- 購入・役務の利用強制
- 不当な経済上の利益の提供要請
- 不当な給付内容の変更・やり直し要求
④募集情報の的確表示義務
フリーランスを募集する広告や求人情報において、虚偽または誇大な内容を掲載することが禁止されます。「高単価保証」「月収100万円も夢じゃない」といった表現は慎重な検討が必要です。
⑤育児介護等と業務の両立への配慮義務
フリーランスから申し出があった場合、育児・介護・疾病治療等と業務を両立できるよう配慮することが義務となります。具体的には、納期の調整・業務量の見直しへの誠実な協議が求められます。
⑥ハラスメント対策措置義務
フリーランスに対するセクシャルハラスメント・パワーハラスメント等を防止するための体制整備が発注企業に義務付けられます。社内の従業員向けハラスメント規程をフリーランスにも適用できるよう改定することが求められます。
⑦契約解除等の予告義務(30日前)
継続的業務委託を中途解除または更新しない場合、原則として30日前までにフリーランスへ予告しなければなりません。突然の契約打ち切りは違反となる可能性があります。
KPI・評価制度への影響|「成果主義」の落とし穴
KPIの設定が「買いたたき」とみなされるリスク
フリーランスとの契約でKPIを設定すること自体は問題ありません。しかし、KPI未達を理由とした報酬の一方的な減額は、法律が禁止する「減額」行為に該当する可能性があります。
特に以下のような運用は要注意です。
- 「目標件数の80%未達なら報酬を20%カット」という条項を事後的に追加する
- 発注時に明示していなかったKPIを後から持ち出して報酬を調整する
- 成果物の品質基準が曖昧なまま「やり直し」を繰り返し要求する
KPIと報酬を連動させる場合は、発注時の書面に明確な算定ロジックを記載し、双方が合意した状態で契約を締結することが必須です。
適切なKPI設計の考え方
フリーランスとのKPIは、以下の観点で設計することを推奨します。
- 定量・定性を組み合わせる:数値目標だけでなく、成果物の品質基準も文書化する
- 外部要因の影響を考慮する:市場環境の変化など、フリーランス側に起因しない要因でKPIが変動する場合の取り扱いを明記する
- 変更手続きを規定する:KPI内容を変更する際は、書面による合意を必須とするプロセスを設ける
- 評価フィードバックの頻度を定める:定期的な進捗確認の場を設け、一方的な評価を避ける
業務委託契約書の見直しポイント|チェックリスト付き
既存契約書に潜む5つのリスク箇所
現在使用している業務委託契約書を以下の観点で点検してください。
1. 報酬条項の明確性
報酬額・算定方法・支払期日が具体的に記載されているか確認します。「別途協議」「甲が定める額」といった曖昧な表現は、明示義務違反のリスクがあります。
2. 支払サイト(支払期日)
成果物の検収完了日から支払日までの日数を確認し、60日以内に収まっているか確認します。月末締め翌々月末払いなど、業種慣行として長期支払サイトを採用している企業は特に注意が必要です。
3. 契約解除条項
「甲は任意に本契約を解除できる」など、フリーランスに一方的に不利な即時解除条項が含まれていないか確認します。30日前予告の義務を契約書に明記することを推奨します。
4. 業務内容・成果物の定義
「その他甲が指示する業務」といった包括的な表現は、後からの「やり直し要求」に悪用されるリスクがあります。業務範囲を明確に定義し、変更が生じた場合の合意プロセスを規定します。
5. ハラスメント条項・相談窓口の整備
フリーランスがハラスメントを受けた場合の相談窓口・対応手順が契約書または別途規程に定められているか確認します。社内規程の適用範囲をフリーランスにも拡大する改定が必要です。
対応スケジュールの目安|2026年7月1日までにやるべきこと
フェーズ1:現状把握(すぐに着手)
- 自社でフリーランスに業務委託している案件の洗い出し
- 現行契約書・発注書のひな形の収集
- 支払サイトの確認と経理フローの把握
フェーズ2:ギャップ分析と計画策定(2〜4ヶ月)
- 法律要件と現状のギャップ一覧化
- 契約書ひな形の改定(法務・外部弁護士との連携)
- 社内ハラスメント規程のフリーランスへの適用範囲拡大
- 経理部門との支払サイト短縮計画の策定
フェーズ3:社内展開・研修(1〜2ヶ月)
- 調達・購買・営業・人事など発注部門への社内研修の実施
- 改定後の契約書ひな形・発注書フォームの社内展開
- フリーランスへの変更内容の周知・説明
フェーズ4:運用開始・モニタリング(施行後)
- 新ルールに基づく発注フローの定着確認
- 定期的なコンプライアンスチェックの仕組み化
- 問題発生時のエスカレーションフローの整備
違反した場合のリスク|行政措置と評判リスク
フリーランス保護新法に違反した場合、公正取引委員会・厚生労働省・中小企業庁が連携して監督を行います。具体的なペナルティとしては以下が想定されます。
- 報告徴収・立入検査:行政機関による調査が実施される
- 助言・指導・勧告:是正を求める行政指導
- 公表:勧告に従わない場合、企業名が公表される
- 命令・罰則:命令違反には50万円以下の罰則規定あり
金銭的ペナルティ以上に深刻なのが企業ブランドへのダメージです。SNSやニュースメディアを通じた情報拡散により、採用・取引・顧客獲得に長期にわたる悪影響が出るリスクも無視できません。
中小企業・スタートアップが見落としがちな3つの盲点
盲点①「副業人材」も対象になる
正社員の副業を受け入れている企業であっても、副業者が「従業員ゼロ」の個人として業務委託を受けている場合は法律の適用対象となります。副業解禁に伴い業務委託形態で副業人材を活用している企業は特に注意が必要です。
盲点②「単発案件だから問題ない」は誤解
書面明示義務・報酬支払期日・禁止行為の一部は単発の業務委託にも適用されます。「1回だけの依頼だから大丈夫」という判断は危険です。
盲点③クラウドソーシング経由の案件も対象
クラウドソーシングプラットフォームを通じて発注した案件についても、発注者と受注者の関係性において法律が適用される場合があります。プラットフォームの利用規約に依存せず、自社での対応を確認することが重要です。
SOAが提供できる支援|Webシステム・業務フロー改善の観点から
フリーランス保護新法への対応は、法務・人事の問題であると同時に、業務フロー・社内システムの改善課題でもあります。
たとえば、以下のようなシステム・業務改善ニーズが発生します。
- 発注書・契約書の電子化・ペーパーレス化(電磁的方法での明示義務への対応)
- フリーランスごとの発注履歴・支払期日管理の仕組み化
- KPI管理・進捗共有のためのプロジェクト管理基盤の整備
- ハラスメント相談窓口の設置・管理システムの構築
株式会社SOAは、WebシステムやAIを活用した業務改善支援を通じて、こうした社内DXニーズをトータルでサポートします。法律対応をきっかけに、フリーランス活用の仕組みそのものをより効率的・透明性の高い形に刷新することも可能です。
対応方針の整理から具体的なシステム設計まで、まずはお気軽にご相談ください。
まとめ|2026年7月1日を「業務委託の仕組みを見直す好機」に
フリーランス保護新法の完全施行まで、時間的余裕はそれほど多くありません。対応を後回しにすることは、コンプライアンスリスクを蓄積し続けることを意味します。
一方で、この機会を活用して業務委託の発注フロー・契約管理・KPI設計を整備することは、フリーランスとの関係をより健全・生産的なものにし、優秀な外部人材が「また仕事をしたい」と思える発注企業へのブランディングにもつながります。
今すぐ自社の現状を棚卸しし、段階的な対応計画を立てることが、2026年7月1日を安心して迎えるための最短ルートです。
法律への対応に合わせて社内システム・業務フローの見直しも検討されている方は、ぜひSOAへご相談ください。貴社の状況を丁寧にヒアリングしたうえで、最適な対応策をご提案いたします。