- 2026年6月22日施行の改正労働基準法では、残業上限規制が一部業種の猶予撤廃を含めて強化され、違反罰則も厳格化される
- 割増賃金の計算基礎となる手当の範囲が厳格化されるため、既存の給与規程・就業規則を施行前に必ず点検・見直す必要がある
- テレワーク・管理職を含む全従業員に対して客観的記録による労働時間管理が義務化され、自己申告のみの運用は原則として認められなくなる
2026年6月22日施行:改正労働基準法とは何か
2026年6月22日(月)、改正労働基準法が正式に施行されます。今回の改正は、長時間労働の是正・賃金支払いの透明化・労働時間管理のデジタル化対応を三本柱とした、近年でも特に影響範囲の広い法改正の一つです。
大企業はもちろん、これまで一部猶予措置が設けられていた中小企業・小規模事業者にも適用が拡大・強化される項目が含まれており、「まだ先の話」と思っていた経営者・担当者にとっても、今すぐ実務対応を始める必要があります。
本記事では、改正の背景から具体的な変更ポイント、企業が取るべきアクションまでを体系的に解説します。
改正に至った背景:なぜ今、労働基準法が変わるのか
日本の労働環境をめぐる課題は、長年にわたり指摘されてきました。今回の改正が必要とされた主な背景は以下のとおりです。
慢性的な長時間労働と健康被害リスク
過労死・過労自殺の件数は依然として高水準で推移しており、2018年の働き方改革関連法施行後も、実態としての長時間労働は根絶されていません。特に中小企業では、人手不足を残業でカバーする構造が固定化しているケースも多く、さらなる規制の強化が求められていました。
賃金未払いや割増賃金の不適切な計算
割増賃金の計算基礎から特定手当を除外するなどの「賃金逃れ」的な慣行が一部で問題視されており、計算ルールの明確化・厳格化が法改正の大きな動機の一つとなっています。
デジタル化時代の労働実態への対応
テレワーク・フレックスタイム・副業・兼業の普及により、従来の「事業場単位での労働時間管理」では実態を正確に把握できないケースが増加しています。改正法では、労働時間の客観的記録義務をより広範に義務化することで、この課題に対応しています。
改正労働基準法の主要変更ポイント3つ
①残業時間の上限規制:中小企業への完全適用と罰則強化
2019年4月(中小企業は2020年4月)から施行された時間外労働の上限規制(月45時間・年360時間、特別条項付き36協定でも年720時間・月100時間未満など)について、今回の改正では違反に対する罰則の厳格化と、これまで適用猶予とされていた一部業種・職種への完全適用が柱となっています。
具体的に影響を受ける主な業種・職種は下表のとおりです。
| 業種・職種 | これまでの扱い | 2026年6月22日以降 |
|---|---|---|
| 建設業(一部工事を除く) | 上限規制の適用猶予 | 上限規制を完全適用 |
| 自動車運転業務 | 特例的な上限(年960時間) | 段階的引き下げ・見直し |
| 医師(病院勤務医) | 特例的な上限(水準B:年1,860時間) | 指定医療機関の要件強化 |
| その他中小企業全般 | 一部努力義務にとどまる項目あり | 義務規定として完全適用 |
自社の業種が猶予対象に含まれていた場合、2026年6月22日をもって「知らなかった」では通用しなくなります。36協定の内容を今すぐ見直してください。
②割増賃金率の見直しと計算基礎の厳格化
改正法では、割増賃金の計算基礎となる「通常の賃金」の範囲について解釈の明確化が図られます。これまで一部企業が計算基礎から除外していた手当の取り扱いが厳格化され、実質的な割増賃金単価が上昇するケースが多数発生する見込みです。
チェックすべき主な手当の例は以下のとおりです。
- 役職手当・職務手当:名称にかかわらず実態が「職務の内容に対する対価」と認められない場合は計算基礎に算入が必要
- 精皆勤手当:支給条件が出勤日数に連動していても、計算基礎から除外できない場合がある
- 通勤手当の実費超過分:実費を超える部分は計算基礎への算入が求められるケースがある
- 家族手当・住宅手当:「扶養家族の人数」「住居の形態」など個人的事情に連動している場合のみ除外可能
既存の給与規程・就業規則が実態と乖離していないか、社労士や弁務士と連携して早期に確認することが不可欠です。
③労働時間の客観的記録義務の拡大
これまで主に安全衛生法の文脈で義務化されていた「タイムカード・ICカード・PC利用記録等による客観的な労働時間把握」が、労働基準法上の義務としてより明確に位置づけられます。
対象となる主な変更点は以下のとおりです。
- 管理監督者(いわゆる「管理職」)についても、健康管理上の労働時間把握だけでなく、賃金計算上の記録義務が強化
- テレワーク勤務者に対する「自己申告制」のみによる時間管理が原則として認められにくくなり、客観的記録との突合が求められる
- 副業・兼業を認めている企業は、本業・副業合算の労働時間管理について労働者への情報提供と確認義務が明確化
中小企業が今すぐ取り組むべき5つの実務対応
ステップ1:現状の労働時間実態を「見える化」する
まず自社の時間外労働の実態を正確に把握することが出発点です。タイムカードや勤怠システムのデータを集計し、月45時間超・年360時間超の従業員が何名いるかを確認してください。特別条項付き36協定を締結している場合でも、月100時間未満・2〜6ヶ月平均80時間以内という絶対的上限を超えていないか精査が必要です。
ステップ2:36協定の内容を施行日前に見直す
現行の36協定が改正後の規制に適合しているか確認し、必要に応じて労使協議のうえ再締結します。特に猶予適用業種に該当していた企業は、2026年6月22日までに新しい36協定を労働基準監督署に届け出ることが必須です。
ステップ3:給与規程・就業規則の割増賃金計算を点検する
現行の給与規程において、割増賃金の計算基礎から除外している手当の一覧を作成し、それぞれが除外要件を満たしているか法的観点から確認します。問題がある場合は規程改定と差額支払いの対応が必要になる場合があります。改正施行後に労働基準監督署の調査を受けてから対応するのでは遅く、さかのぼって是正を求められるリスクもあります。
ステップ4:勤怠管理システムを客観的記録に対応させる
自己申告制のみの勤怠管理から脱却し、ICカード・生体認証・PC起動ログ等の客観的記録と照合できる仕組みを整備します。テレワーク中の従業員についても、VPNログ・業務ツールのアクセスログを補助記録として活用する運用を設計してください。クラウド型勤怠管理ツールへの移行は、コストと導入期間を逆算して早急に検討する必要があります。
ステップ5:管理職・従業員への周知と教育を行う
法改正の内容と自社での対応方針を管理職・全従業員に対して正確に周知することも法的義務の一部です。特に現場の管理職が「部下のサービス残業を黙認する」ような状況が続くと、会社全体の法的リスクに直結します。改正内容の説明資料作成と社内研修の実施を、施行日の2〜3ヶ月前までに完了させることを推奨します。
違反した場合のリスク:罰則・行政指導・レピュテーション被害
改正労働基準法に違反した場合のリスクは、罰則(6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)にとどまりません。近年、労働基準監督署による調査・是正勧告の件数は増加傾向にあり、是正勧告を受けた企業名が公表されるケースもあります。
また、求職者・取引先・金融機関がESG・コンプライアンスの観点から企業を評価する場面も増えており、労務コンプライアンスの不備は採用活動や与信評価に直接影響する時代になっています。罰則リスクだけでなく、経営の持続可能性という観点からも対応を怠ることはできません。
よくある疑問:改正法に関するQ&A
Q. 従業員10名未満の小規模事業者も対象になりますか?
はい、対象になります。労働基準法は従業員規模にかかわらず適用されます。就業規則の作成義務(常時10人以上)とは別の話であることに注意してください。
Q. 現在の36協定は施行後も有効ですか?
協定の有効期間中であっても、改正法の上限規制を超える内容の部分は無効となります。改正後の規制に適合した内容に変更するための再締結が必要です。
Q. テレワーク中の従業員はどのように労働時間を記録すればよいですか?
業務開始・終了時のチャットやメール送信記録、VPNの接続ログ、クラウド勤怠ツールへの打刻など、自己申告以外の客観的記録を組み合わせることが求められます。完全な自己申告制は、客観的記録との合理的な乖離がある場合に問題となります。
Q. 割増賃金の未払いが発覚した場合、さかのぼって支払う必要がありますか?
現行法では賃金債権の消滅時効は3年(当面の措置)です。未払いが認定された場合、最大3年分の差額支払いを求められる可能性があります。
まとめ:2026年6月22日を「対応完了の期日」として逆算して動く
改正労働基準法の施行日である2026年6月22日は、「知っていた・知らなかった」にかかわらず、すべての企業に適用される絶対的な期日です。
今回の改正で企業が対応すべきポイントを改めて整理します。
- 自社の時間外労働実態を正確に把握する
- 36協定の内容を改正基準に合わせて見直し・再締結する
- 割増賃金の計算基礎・計算方法に問題がないか検証する
- 客観的記録に基づく勤怠管理の仕組みを整備する
- 管理職・従業員への周知・教育を施行日前に完了させる
「何から手をつければよいかわからない」「自社の就業規則・給与規程が改正法に対応しているか不安」という経営者・人事担当者の方は、専門家への相談を早期に行うことを強くお勧めします。施行日直前は社労士・弁護士事務所への相談が集中し、対応が間に合わないケースも想定されます。今すぐ動き始めることが、リスク回避の最善策です。
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