- SaaSスプロール・円安コスト増・ベンダー終了リスクが重なり、2026年にかけてSaaS廃止・見直しに踏み切る企業が急増している
- 移行成功の鍵は「ツール棚卸し→業務プロセス再設計→段階的移行→定着化支援」の7ステップを経営・現場・IT部門が一体で進めること
- 2026年以降は「SaaSファースト」から「フィットフォーパーパス」へ発想を転換し、データ統合基盤と生成AI連携を前提としたシステム設計が競争優位につながる
「SaaS疲れ」がDX現場を直撃──2026年に何が起きるのか
「とりあえずSaaSを入れればDXが進む」という時代が、静かに終わりを告げようとしています。2020年代前半、多くの企業がクラウドSaaSを次々と導入しました。しかし2025年を過ぎたあたりから、現場では別の悩みが表面化しています。
「ツールが10種類以上あるのに、誰も全部使いこなせていない」「月額費用を足し算したら、年間で数百万円を超えていた」「ベンダーがサービスを終了すると連絡が来た」──こうした声はもはや珍しくありません。
本記事では、SaaSの廃止・脱却が加速する背景を整理したうえで、DX推進担当者が2026年以降に備えて今すぐ着手すべき「次の一手」を体系的に解説します。
なぜ今、SaaSを「やめる」選択が増えているのか
①ツール乱立による「SaaSスプロール」の深刻化
SaaSスプロール(SaaS Sprawl)とは、組織内にSaaSが野放図に増殖し、管理が追いつかなくなる状態を指します。米Zylo社の調査によれば、従業員1,000人規模の企業が契約するSaaSの平均数は200を超えると報告されています。日本でも規模の大小に関わらず、同様の問題が顕在化しています。
ツールが増えると、データが分散します。データが分散すると、意思決定に必要な情報を一元的に把握できなくなります。これはDXの本質である「データ活用による経営改善」とまったく逆行する状態です。
②SaaSベンダーのサービス終了リスクが現実化
2023〜2025年にかけて、国内外のSaaSベンダーによるサービス終了・機能縮小の事例が相次ぎました。特に中小規模のSaaSプロバイダーは、資金繰りの悪化や競争激化により撤退を余儀なくされるケースが増えています。
ある日突然「6か月後にサービスを終了します」という通知が届く──そのリスクを身をもって体験した企業は、「外部SaaSへの依存度をどこまで許容するか」を改めて問い直し始めています。
③円安・インフレによるSaaSコストの急騰
多くのSaaSは米ドル建てで価格設定されています。2022年以降の円安局面では、同じサービスを使い続けているにもかかわらず、円換算の月額費用が20〜40%程度跳ね上がった企業も少なくありません。コスト最適化の観点から「本当に必要なSaaSだけに絞る」という見直しが経営課題として浮上しています。
④2026年問題:レガシー刷新の最終期限が迫る
経済産業省が警鐘を鳴らした「2025年の崖」はよく知られていますが、実際の対応が2026年以降にずれ込んでいる企業が多数存在します。レガシーシステムの刷新を先送りしたまま「つなぎ」としてSaaSを導入した企業の多くが、2026年ごろに改めてシステム全体の再設計を迫られる局面を迎えます。
SaaSを「見直す」前に整理すべき4つの視点
視点1:利用実態の可視化(ツール棚卸し)
まず現状を正確に把握することが先決です。組織内で契約・利用しているSaaSをすべてリストアップし、次の項目を確認します。
- 月額・年額のコスト
- 実際のアクティブユーザー数と全体の契約シート数の比率
- 他のツールとのデータ連携状況
- 契約更新日と解約条件
- 代替手段の有無
この棚卸しだけで、「使われていないのに払い続けているSaaS」が複数発見されるケースは非常に多いです。年間コストの10〜30%削減につながる例も珍しくありません。
視点2:コア業務とノンコア業務の仕分け
SaaSに向いている業務と、そうでない業務があります。一般的に、自社の競争優位性に直結しない標準的な業務(会計・給与・メール・チャットなど)はSaaSに任せることでコストと管理負荷を下げられます。
一方、自社固有のビジネスロジックや、顧客データを深く扱う業務については、汎用SaaSでは限界が生じやすく、カスタム開発や内製化のほうが長期的に有利になることがあります。
視点3:データ主権の確認
SaaSに業務データを預けるということは、そのデータの管理権限の一部をベンダーに委ねることを意味します。個人情報保護法の改正やEUのGDPRに倣った規制強化の流れを受け、「自社データをどこに・どの形式で保存するか」は法務・コンプライアンスの観点からも重要な経営判断です。
特に、サービス終了時にデータをどのような形式でエクスポートできるか(あるいはできないか)は、SaaS導入前に必ず確認すべき項目です。
視点4:内製化・ローコード開発の現実的な評価
「内製化」と聞くと「エンジニアを大量採用しなければならない」とイメージする担当者も多いですが、現在はローコード・ノーコードプラットフォームの成熟により、非エンジニアでも業務アプリを構築・運用できる環境が整っています。
SaaSを廃止した後の代替手段として、完全なスクラッチ開発だけでなく、ローコードツールを活用した準内製化という選択肢を現実的に検討する価値があります。
SaaS移行・廃止プロジェクトの進め方:7ステップ
ステップ1:ステアリングコミッティの設置
SaaSの見直しは、IT部門だけで進めると失敗します。現場の業務部門、情報システム部門、経営企画、場合によっては財務・法務を巻き込んだ横断的な意思決定体制(ステアリングコミッティ)を設けることが第一歩です。
ステップ2:As-Is(現状)の業務プロセスマッピング
どのツールが、どの業務プロセスに紐づいているかを図示します。この作業を怠ると、「SaaSを廃止したら、思わぬ業務が止まった」という事態が発生します。業務フロー図とデータフロー図の両方を描くことを推奨します。
ステップ3:To-Be(理想)の設計
現状の業務プロセスをそのままシステムに移行するのではなく、「あるべき業務の姿」を先に設計します。BPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング)の視点を持ち、無駄なプロセスは廃止・統合した状態を目指します。
ステップ4:移行先オプションの比較検討
廃止するSaaSの機能を、次のどのオプションで補うかを比較します。
- 別のSaaSへの乗り換え:より信頼性が高く、価格が適切なサービスへ移行
- ERPへの統合:散在するSaaSをひとつのプラットフォームに集約
- ローコード開発:自社仕様の業務アプリを素早く構築
- スクラッチ開発:競合優位性に直結する機能を完全内製化
- 機能廃止(やめる):そもそもその機能が不要だったと判断し廃止
ステップ5:データ移行計画の策定
移行プロジェクトで最も工数がかかり、かつリスクが高いのがデータ移行です。移行対象データの洗い出し、クレンジング(データ品質の修正)、移行後の検証テストを含めた詳細計画を事前に立てておかなければなりません。
特に注意が必要なのは、SaaSに独自フォーマットで保存されたデータをエクスポートする際の形式変換です。CSVやAPIでのデータ取得可否を早期に確認しましょう。
ステップ6:段階的移行と並行稼働期間の設定
一斉切り替えは高リスクです。部門単位・機能単位で段階的に移行し、旧システムと新システムを一定期間並行稼働させることで、移行後の問題を局所的に検出・修正できます。並行稼働の期間は業務の複雑さにもよりますが、最低でも1〜3か月を確保することが望ましいです。
ステップ7:移行後の定着化支援
新しいシステムへの移行が完了しても、ユーザーが使いこなせなければ意味がありません。操作マニュアルの整備、ハンズオントレーニングの実施、社内問い合わせ窓口(ヘルプデスク)の設置など、定着化(アダプション)のための施策を計画に組み込みます。
よくある失敗パターンと回避策
失敗1:「コスト削減」だけを目的にしてしまう
SaaSの廃止をコスト削減のみの視点で進めると、現場の業務効率が著しく低下するリスクがあります。移行後の業務生産性・ユーザー体験の向上を同時に目標として掲げることが重要です。
失敗2:現場を置き去りにした「上からの決定」
IT部門や経営層だけで廃止・移行を決定し、現場担当者に事後報告するパターンは、強い抵抗と移行後の混乱を招きます。早い段階から現場キーユーザーを巻き込み、要件定義やテストに参加してもらう体制が不可欠です。
失敗3:移行スケジュールの過度な楽観視
「3か月で完了する」と見込んでいたプロジェクトが、データ品質の問題やベンダーとの交渉遅延で1年以上に延びるケースは頻繁に起きます。バッファを含めたスケジュールを設定し、契約更新日から逆算して余裕を持って動き始めることが重要です。
失敗4:移行後の「野良SaaS」の再発
SaaSの棚卸し・統廃合を完了しても、ガバナンスの仕組みを整えなければ、現場部門が独自にSaaSを契約し、再びスプロール状態に戻ります。新規SaaS導入の申請・承認プロセスを社内ルールとして整備することが再発防止の鍵です。
2026年以降を見据えたシステム戦略の方向性
「SaaSファースト」から「フィットフォーパーパス」へ
すべての業務にSaaSを当てはめるという「SaaSファースト」の思想から、「この業務に最も適した手段は何か」という「フィットフォーパーパス(Fit for Purpose)」の発想への転換が求められています。SaaSが最適な場合はSaaSを使う。内製が最適な場合は内製する。そのハイブリッドな判断を冷静に下せる組織が、2026年以降のDX競争で優位に立ちます。
プラットフォームアーキテクチャの再設計
データを一元管理するデータプラットフォーム(データウェアハウス・データレイク)を中心に据え、その周辺に必要最小限のSaaSとカスタムアプリを配置するアーキテクチャが主流になりつつあります。ツールごとにサイロ化したデータを統合し、AIによる分析・自動化に接続できる基盤を整えることが、次世代DXの土台となります。
生成AIとの統合を前提とした設計
2026年以降のシステム選定では、生成AI(LLM)との連携可否が重要な評価軸になります。API公開の充実度、社内データとAIを安全に接続できるセキュリティ設計、AIによる業務自動化の拡張性──これらを考慮したシステム設計が、中長期的な競争力を左右します。
まとめ:「やめる勇気」がDXを加速させる
DXとは、新しいツールを増やし続けることではありません。業務の本質を見直し、本当に必要なシステムだけを残し、データを正しく活用できる組織に変革することです。
SaaSの廃止・脱却は、後退ではなくDXの深化です。2026年という節目を意識しながら、今こそ自社のシステム全体を俯瞰し、「やめるべきもの」「残すべきもの」「新たに構築すべきもの」を整理する好機です。
正しい見直しの手順を踏み、現場と経営が一体となって取り組めば、SaaSスプロールの解消はコスト削減にとどまらず、データ品質の向上・業務スピードの改善・ベンダーリスクの低減という多面的な効果をもたらします。
システム移行・SaaS見直し・DX推進のご支援については、ぜひお気軽にご相談ください。