- 改正法は2026年9月20日に施行され、現行法(2024年)から対象範囲・義務内容ともに大幅に拡充される
- 発注事業者は書面による契約明示義務・60日以内の報酬支払い義務・ハラスメント防止措置義務の三本柱を同時に整備する必要がある
- フリーランス個人も自身の権利と申告・記録保持義務を正しく理解することで、トラブル予防と適切な救済申請が可能になる
はじめに:なぜ今「フリーランス保護法」が注目されるのか
働き方の多様化が加速するなか、フリーランスとして活動する人口は国内で推計300万人を超え、副業・兼業も含めると実態はさらに大きいとされています。その一方で、「報酬を一方的に減額された」「口頭の約束だけで契約書を渡してもらえない」「発注者からのハラスメントを受けても相談窓口がない」といった声が後を絶ちません。
こうした背景から2024年11月に施行されたのが「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」(いわゆるフリーランス保護法)です。そしてその施行からわずか約2年で、2026年9月20日に改正法が施行されることが決定しました。
本記事では、現行法(2024年)の概要をおさらいしたうえで、改正法で何が変わるのかをわかりやすく整理し、発注側の企業・個人事業主の双方が今から取り組むべき実務対応を具体的に解説します。
第1章:現行フリーランス保護法(2024年)のおさらい
法律の目的と基本構造
フリーランス保護法は、「特定受託事業者」(従業員を雇用しないフリーランス)と「特定業務委託事業者」(発注側企業)の間の取引を適正化することを主な目的としています。独占禁止法や下請法では保護しきれなかった、個人事業主を相手にしたグレーゾーンの取引慣行に直接メスを入れた点が大きな特徴です。
現行法が義務付ける主な内容は次の3点です。
- 書面等による取引条件の明示:業務内容・報酬額・支払期日などを書面またはデジタル媒体で明示する
- 報酬の支払期日の設定:業務完了から60日以内に報酬を支払う
- 禁止行為の規定:受領拒否・報酬の減額・返品・買いたたき・不当な給付内容の変更などを禁止
さらに、6カ月以上の継続的業務委託を行う場合には、ハラスメント防止措置の実施と中途解除・不更新の事前予告(30日前)が義務付けられています。
現行法の適用対象
現行法が直接対象とするのは「従業員を雇用しない個人事業主・一人法人」です。社員が1人でもいれば発注先としての「特定受託事業者」には該当しないため、小規模でも従業員を持つ事業者は保護の対象外となっていました。この「抜け穴」が改正の大きな論点の一つになっています。
第2章:改正フリーランス保護法(2026年9月20日施行)の主な変更点
変更点① 対象範囲の拡大
改正法では、従業員数が一定規模以下の小規模事業者(マイクロ法人・少人数雇用の個人事業主)にも保護対象が広げられる方向で検討・整備が進んでいます。現行法の「従業員なし」という要件が緩和されることで、実質的にフリーランスと同様の立場にある小規模事業者も保護の傘に入ることになります。
これは発注側にとっても重要な変化です。「この相手は特定受託事業者に該当しないから書面明示は不要」という従来の判断基準が通用しなくなる可能性があるため、取引先の属性確認フローを見直す必要があります。
変更点② 書面明示事項の追加
現行法でも書面等による取引条件の明示は義務ですが、改正法では明示すべき事項がさらに具体化・拡充されます。新たに明示が求められる主な項目として以下が挙げられています。
- 業務の遂行場所・方法に関する制限事項
- 知的財産権の帰属に関する取り決め
- 秘密保持・競業避止に関する条件
- 成果物の検収基準と検収期間
特に知的財産権の帰属は、デザイン・ライティング・プログラミングなどのクリエイティブ領域で長年トラブルの温床になってきた事項です。改正法施行後は「著作権は当然発注者に帰属」という慣習的な取り決めを曖昧なまま放置することが法的リスクに直結します。
変更点③ 報酬支払いルールの厳格化
現行法の「業務完了から60日以内」という支払期日ルールは維持されますが、改正法では「業務完了の確認(検収)から起算」という起点がより明確に定義されます。これまで恣意的な検収引き延ばしによって支払いを遅らせるケースがあったため、検収期間の上限(例:完了通知から30日以内)が新たに設けられる見通しです。
つまり実質的な「支払いまでの最長日数」が現行法より短縮される方向性であり、発注企業の経理・購買フローの見直しが急務となります。
変更点④ ハラスメント防止措置の強化
現行法では6カ月以上の継続的業務委託の場合のみハラスメント防止措置が義務でしたが、改正法では期間を問わず全ての業務委託においてハラスメント防止措置の実施が義務付けられる可能性があります。また、措置の「実施」にとどまらず、相談窓口の設置・周知・記録保持まで含めた実効性ある運用が求められるようになります。
さらに、フリーランスからのハラスメント相談を受けた際の調査・対応・フィードバックの手続きについても指針が整備される予定です。社内のハラスメント対応マニュアルに「業務委託先(フリーランス)からの申告」の項目を追記することが求められます。
変更点⑤ 中途解除・不更新予告の見直し
現行法では30日前の予告が必要ですが、改正法では契約期間が長期にわたる場合(例:1年超)の予告期間が60日に延長される方向で議論が進んでいます。また、予告の際に解除・不更新の理由を書面で明示する義務が加わる可能性があり、「なんとなく更新しない」という慣習的運用が通用しなくなります。
変更点⑥ 行政による調査・勧告・公表権限の拡充
現行法にも公正取引委員会・中小企業庁・厚生労働省による指導・助言・勧告の仕組みはありますが、改正法では違反事業者名の公表要件が緩和され、より積極的な情報開示が行われるようになります。いわゆる「名指し公表」の実施ハードルが下がることで、コンプライアンス上のレピュテーションリスクが高まる点に注意が必要です。
第3章:2024年現行法と2026年改正法の比較表
| 項目 | 現行法(2024年) | 改正法(2026年9月20日〜) |
|---|---|---|
| 保護対象 | 従業員なしの個人事業主・一人法人 | 小規模雇用を含む形で拡大見込み |
| 書面明示事項 | 業務内容・報酬・支払期日など基本事項 | 知的財産・検収基準・競業避止等を追加 |
| 報酬支払期日 | 業務完了から60日以内 | 検収期間上限を明示化・実質短縮の方向 |
| ハラスメント防止措置 | 6カ月以上の継続委託のみ義務 | 期間を問わず全委託に義務化の方向 |
| 中途解除予告 | 30日前 | 長期契約は60日前・理由明示義務の追加見込み |
| 行政の公表権限 | 重大違反に限定的 | 公表要件の緩和・積極開示へ |
※上記の改正内容は2024年時点で公表されている情報・審議状況に基づく整理です。最終的な条文は官報・主務省令を必ずご確認ください。
第4章:発注側企業が今すぐ取り組むべき実務対応
STEP1:取引先のフリーランス該当性を再確認する
まず自社の業務委託先リストを棚卸しし、改正法で対象が広がった場合に新たに「特定受託事業者」に該当する取引先を洗い出します。従業員数・法人格の有無・継続期間などを整理したデータベースを作成することが第一歩です。
STEP2:契約書テンプレートを改正法対応版に刷新する
現行法対応で整備した契約書テンプレートに、知的財産権の帰属条項・検収期間の明示・競業避止・秘密保持の具体的条件を追記します。法務担当や顧問弁護士と連携し、2026年9月20日の施行前に全テンプレートを刷新することを目指します。
なお、既存の継続中の契約についても、改正法施行に合わせて覚書等で条件を補完することが望ましいとされています。
STEP3:経理・購買フローの支払いサイトを見直す
改正法では検収起点が明確化されるため、「検収完了日+最長○日以内に支払い処理」という社内ルールを経理・購買・現場の3部門で共有することが必要です。月次締め・翌々月払いという従来のサイトが違反に該当するケースが生じる可能性があるため、財務担当と早期にシミュレーションを行いましょう。
STEP4:ハラスメント相談窓口を業務委託先にも開放する
社内のハラスメント相談窓口の案内文・規程に「業務委託先(フリーランス)からの申告を受け付ける」旨を明記します。相談受付・調査・対応・記録のフローを文書化し、担当者への研修も合わせて実施することが重要です。
STEP5:中途解除・不更新の社内手続きを整備する
プロジェクト終了や予算削減時にフリーランスとの契約を解除・不更新する場合の社内申請・承認・通知フローを整備します。解除理由を書面で残す習慣を徹底することで、後日の紛争リスクを大幅に低減できます。
第5章:フリーランス個人が知っておくべき権利と実務対応
自分が「特定受託事業者」に該当するか確認する
改正法で対象範囲が広がることは、より多くのフリーランスが法的保護を受けられることを意味します。まず自身が現行法・改正法のどちらの対象にも該当するかを確認しましょう。従業員を雇っていない個人事業主・一人合同会社・一人株式会社は現行法から対象です。
受け取るべき書面・情報を把握する
発注者は業務委託の際に書面等で取引条件を明示する義務があります。「契約書や発注書をもらっていない」「口頭のみ」という状況は法律違反の可能性があります。業務開始前に必ず書面を要求する習慣をつけましょう。特に改正後は知的財産権の帰属・検収基準も明示対象となるため、これらが記載されているか確認します。
証拠を残す習慣を徹底する
トラブル発生時に最も重要なのが「証拠」です。業務のやり取りはメール・チャットなどテキストで残し、口頭指示はその後確認メールを送る習慣をつけます。報酬の減額・受領拒否などの違法行為があった場合は、日時・内容・相手の発言を記録しておくことで、行政への申告や法的手続きがスムーズになります。
申告先・相談先を事前に把握しておく
フリーランス保護法に関する相談・申告先は主に以下の通りです。
- 公正取引委員会:買いたたき・減額などの禁止行為に関する申告
- 中小企業庁(よろず支援拠点):書面不交付・支払い遅延などに関する相談
- 労働局(ハラスメント相談窓口):ハラスメントに関する相談
- フリーランス・トラブル110番:内閣官房が設置する総合窓口
改正法施行後は各機関の権限が強化されるため、泣き寝入りせず積極的に活用することが自身と同じ立場のフリーランス全体の環境改善にもつながります。
第6章:改正法施行前後のタイムライン
2025年中:準備・設計フェーズ
改正法の政省令・指針が順次公表される時期です。自社の契約書・社内規程・取引先データベースの現状把握を進め、改正内容の確定を待ちながら対応方針を策定します。業界団体や専門家によるセミナー・解説情報を積極的に収集することが重要です。
2026年1〜8月:実装・テスト・研修フェーズ
改正対応版の契約書テンプレート・社内規程・経理フローを整備し、現場担当者への研修を実施します。既存の継続中契約については覚書による条件補完を進め、施行日前日までに全対応を完了させることを目標とします。
2026年9月20日:改正法施行
この日以降に締結・更新される全ての業務委託契約に改正法が適用されます。施行後も行政の立入調査・指導の対象になり得るため、対応状況の定期的な内部監査体制を整えておくことが望ましいです。
よくある疑問Q&A
Q1:個人に業務を発注している量が少なくても対象になりますか?
発注金額や件数に関係なく、特定受託事業者への業務委託であれば法律が適用されます。「年に数回の小口発注だから関係ない」という認識は誤りです。発注の都度、書面明示義務が生じます。
Q2:クラウドソーシングプラットフォーム経由の発注も対象ですか?
プラットフォームを経由する場合でも、最終的に業務を委託する発注者に義務が生じる場合があります。プラットフォーム自体も特定業務委託事業者として規制対象となるケースがあるため、各プラットフォームの利用規約・ガイドラインの更新を確認することをお勧めします。
Q3:フリーランス側も義務はありますか?
基本的に義務の主体は発注側ですが、フリーランス自身も虚偽の申告や証拠の不正提出などを行った場合には法的責任を問われる可能性があります。また、確定申告・インボイス登録など税務・会計上の義務は引き続き各自で管理する必要があります。
Q4:既存の継続中の契約は施行日に自動的に改正法が適用されますか?
施行日以降に契約を更新・締結する際は改正法が適用されます。既存の契約については原則として経過措置が設けられるケースが多いですが、詳細は公布後の附則・政省令を確認する必要があります。早期に覚書で補完しておくことが安全策です。
まとめ:2026年9月20日を「コンプライアンス強化の機会」と捉える
改正フリーランス保護法は、単なる規制強化ではなく、フリーランスと発注企業の双方にとって「取引の透明性・公平性を高め、長期的に良好な関係を築くための基盤整備」と捉えることができます。
適切な契約書・公正な報酬・安全な相談環境が整うことで、優秀なフリーランス人材との継続的な協力関係が生まれやすくなります。一方、フリーランス個人にとっても、法的に守られた環境での働き方は事業の安定につながります。
2026年9月20日の施行まで、準備に使える時間は限られています。現状の契約書・社内フロー・相談窓口を今一度見直し、早期の対応着手が重要です。自社の状況に合わせた具体的な対応策については、専門家への相談も有効な選択肢の一つです。ご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。