- 2026年6月30日をもって電子帳簿保存法の猶予措置が完全終了し、電子取引データを紙印刷で保存する方法は原則認められなくなる
- BtoB企業は「真実性・可視性・検索機能・システム概要書備付け」の4要件を満たす電子保存体制を、遅くとも2026年3月末までに本格運用開始することが推奨される
- 対応はコンプライアンスだけでなく、月次決算の早期化や経理効率向上などバックオフィスDXの好機でもあり、取引先からの信頼獲得にもつながる
2026年6月30日、猶予措置はいよいよ終わる——BtoB企業に迫る電子帳簿保存法の本番
電子帳簿保存法(電帳法)の改正対応を「まだ先の話」と感じている経営者・管理部門の方は少なくありません。しかし、2025年を過ぎた今、残された時間はわずかです。2022年1月の改正施行時に設けられた宥恕(ゆうじょ)措置は段階的に縮小され、2026年6月30日をもって完全に終了します。この日以降、電子取引で授受したデータを紙に印刷して保存する「印刷保存」は原則として認められなくなります。
特にBtoB取引の多い企業では、請求書・注文書・契約書・見積書など膨大な電子取引データが日々発生します。対応が遅れれば、税務調査における不備指摘や、最悪の場合は青色申告承認の取り消しリスクも生じます。本記事では、2026年6月30日を確実にクリアするための実務対応を体系的に解説します。
電子帳簿保存法とは——3つの区分を正しく理解する
電帳法は大きく「①電子帳簿等保存」「②スキャナ保存」「③電子取引データ保存」の3区分に分かれます。BtoB企業が2026年6月30日までに必ず対応しなければならないのは③電子取引データ保存です。
①電子帳簿等保存
会計ソフトで作成した帳簿や決算書を電子データのまま保存する制度です。任意対応ですが、優良な電子帳簿として認定されると過少申告加算税が軽減されるメリットがあります。
②スキャナ保存
紙で受け取った請求書などをスキャンして電子保存する制度です。こちらも任意対応ですが、ペーパーレス化・検索効率向上の観点から積極導入が進んでいます。
③電子取引データ保存(義務対応)
メール添付のPDF請求書、クラウドサービス上の取引データ、EDI取引のデータなど、電子的に授受した取引情報はすべて電子のまま保存する義務があります。2026年6月30日の猶予終了後は、この要件への適合が必須となります。
猶予措置終了後に求められる「4要件」の詳細
電子取引データ保存には、国税庁が定める以下の4要件を満たす必要があります。自社の対応状況をここで改めて確認してください。
要件1:真実性の確保
保存するデータが改ざんされていないことを担保する仕組みが必要です。具体的には「タイムスタンプの付与」「訂正・削除履歴が残るシステムの使用」「訂正・削除を禁止する事務処理規程の整備」のいずれかで対応します。中小企業で最もコストを抑えやすいのは事務処理規程の整備です。
要件2:可視性の確保
保存したデータをディスプレイや書面に速やかに出力できること、および税務職員が確認できる状態を維持することが求められます。パスワードがかかった状態での放置や、担当者しかアクセスできない属人的な管理は不適切です。
要件3:検索機能の確保
「取引年月日」「取引金額」「取引先」の3項目で検索できる機能が必要です。ただし、基準期間の売上高が1,000万円以下の事業者は、税務調査時にダウンロードに応じられる場合はこの要件が免除されます。
要件4:システム概要書等の備付け
使用しているシステムの概要書やマニュアルを備え付けておく必要があります。市販のクラウドサービスを利用する場合は、ベンダーが提供するシステム説明資料で代替できます。
BtoB企業が陥りやすい3つの落とし穴
対応を進めている企業でも、以下の落とし穴にはまるケースが頻繁に報告されています。自社に当てはまる項目がないか確認してください。
落とし穴1:「メール以外は大丈夫」という誤解
電子取引の対象はメール添付のPDFだけではありません。ECサイトや受発注システム上のPDF、クラウドサービスから発行される領収書、EDI連携データ、チャットツールで送受信した請求書なども対象です。自社の取引チャネルを洗い出し、漏れのない対象範囲を把握することが第一歩です。
落とし穴2:保存場所の分散と属人化
担当者のPCローカルフォルダ、共有ドライブ、メールボックスなど、データが散在している状態は要件を満たしません。一元管理できるストレージまたはシステムへの集約が必要です。担当者の退職や異動で管理が途切れるリスクも排除しなければなりません。
落とし穴3:事務処理規程だけで安心してしまう
事務処理規程は真実性確保の手段として有効ですが、規程を作っただけで運用が伴っていなければ意味がありません。規程に沿った保存・管理が実際の業務フローに組み込まれているか、定期的に内部チェックする仕組みも必要です。
2026年6月30日に間に合わせる——実務対応ロードマップ
残り期間を踏まえた現実的なロードマップを提示します。すでに対応済みの工程はスキップし、未着手の工程から着手してください。
フェーズ1:現状把握と対象範囲の洗い出し(1〜2週間)
まず「自社で発生している電子取引の種類と量」を網羅的に把握します。部門ごとにヒアリングを行い、メール・クラウドサービス・EDI・受発注システムなどチャネル別にリストアップします。このフェーズを丁寧に行うかどうかが、後続の対応品質を左右します。
フェーズ2:保存方法の決定とシステム・規程の整備(2〜4週間)
現状把握の結果をもとに、「クラウドストレージ+事務処理規程」で対応するか、「専用の電帳法対応システムを導入する」かを判断します。取引量が少なく、検索要件の免除対象となる小規模事業者であれば前者で十分なケースもあります。一方、月間数百件以上の電子取引が発生するBtoB企業は、検索・管理の効率性と監査対応の観点から専用システムの導入を推奨します。
フェーズ3:社内周知とフロー変更(2〜4週間)
新しい保存フローを全社に展開します。特に営業部門・経理部門・購買部門など電子取引に関わるすべての部署に対し、「何を・どこに・どうやって保存するか」を明文化したマニュアルを配布します。導入初期は管理部門がチェックフローを設けることで、定着を促進します。
フェーズ4:運用テストと内部確認(2週間)
本格運用前に、実際の取引データを用いたテスト運用を行います。検索機能が正しく動作するか、データが正しく格納されているか、アクセス権限は適切かを確認します。テスト期間中に発見した問題点はフロー修正で対処します。
フェーズ5:本格運用開始と定期レビュー
2026年6月30日を安全にクリアするため、遅くとも2026年3月末までに本格運用を開始することを目標にしてください。運用開始後も、四半期ごとに保存状況・規程遵守状況のレビューを行い、形骸化を防ぎます。
システム選定のポイント——BtoB企業が確認すべき5項目
電帳法対応システムは市場に多数存在します。BtoB取引の特性を踏まえた選定基準として、以下の5項目を確認してください。
①法令要件への適合証明
ベンダーが電帳法の4要件に対応していることを明示しているか確認します。「JIIMA認証」(公益社団法人日本文書情報マネジメント協会の認証)を取得しているシステムは要件適合の信頼性が高いとされています。
②既存システムとの連携性
会計ソフト・ERPシステム・受発注システムとのAPI連携やCSV連携が可能かどうかを確認します。手作業でのデータ移行が発生すると、担当者の負担増と入力ミスのリスクが生じます。
③スケーラビリティ
取引量の増加や事業拡大に対応できるか確認します。特に成長企業では、導入時点では問題なくても、2〜3年後にストレージ容量やユーザー数の上限に達するケースがあります。
④サポート体制
法改正への追従対応、障害発生時のサポート体制、導入支援サービスの有無を確認します。電帳法は今後も細則が改正される可能性があるため、ベンダーの法改正対応実績は重要な選定基準です。
⑤コスト構造の透明性
初期費用・月額費用・ストレージ追加費用・オプション費用の全体像を事前に把握します。「基本料金は安いが、BtoB企業が必要とする機能はすべてオプション」というケースも見受けられます。
事務処理規程だけで対応する場合の注意点
システム導入コストを抑えたい企業向けに、事務処理規程のみで対応する際の注意点を整理します。
国税庁が公表している「電子取引データの訂正及び削除の防止に関する事務処理規程」のひな形を活用することで、比較的短期間で規程を整備できます。ただし、ひな形をそのまま使用するのではなく、自社の業務フローに合わせてカスタマイズすることが重要です。特にBtoB企業では「複数部署にまたがる取引データの管理責任者を誰が担うか」を明確にしておく必要があります。
また、事務処理規程での対応は「削除・改ざんを禁止する運用ルールの存在」で真実性を担保する方法です。万一、規程に反した削除・改ざんが発覚した場合、内部統制上の問題として経営リスクに直結します。規程の実効性を高めるために、保存フォルダへのアクセスログ記録や定期棚卸しを合わせて実施することを推奨します。
中小BtoB企業こそ早期対応が競争優位になる
電帳法対応を「コスト負担」として捉える経営者は少なくありませんが、見方を変えればバックオフィスDXを加速させる好機でもあります。電子取引データの一元管理が実現すれば、月次決算の早期化・取引先への支払い照合の効率化・経理担当者の残業削減など、副次的な効果が数多く生まれます。
大企業はすでに対応を完了しているケースがほとんどです。取引先の大企業から「電帳法対応済みか」を確認されるケースも増えており、未対応であることが商談の障壁になるリスクも現実のものとなっています。2026年6月30日への対応は、コンプライアンスの問題であると同時に、取引先からの信頼獲得という観点でも重要です。
まとめ——2026年6月30日を安全にクリアするために今すぐできること
電子帳簿保存法への対応期限まで、残された時間は限られています。対応の第一歩として、まず以下の3点を今週中に確認してください。
第一に、自社で発生している電子取引の種類と量を把握する。第二に、現在の保存方法が4要件を満たしているかを確認する。第三に、不足がある場合は事務処理規程の整備またはシステム導入のどちらで対応するかを判断する。
対応の方向性が固まっても、実際の運用フロー設計・システム選定・社内周知には相応の時間が必要です。2026年6月30日に余裕をもって間に合わせるためには、2025年中に対応方針を確定し、2026年前半に本格運用を開始するスケジュールが理想的です。
電帳法対応・バックオフィスDXに関してご不明な点や、自社の対応状況を専門的な視点でチェックしたい場合は、ぜひSOAへご相談ください。貴社の業務実態に合わせた実務的なアドバイスをご提供します。