- らしさは3層構造で設計できる
- 言語化は変換して初めて伝わる
- 断ったことリストが最初の一歩
「うちの会社って、どこが強いんだろう」——そう聞かれると、とっさに答えられない経営者や採用担当者は少なくありません。感覚ではわかっているのに、言葉にしようとすると霧散してしまう。この状態のまま採用サイトをつくったり、会社紹介動画を発注しても、「なんとなく平凡な仕上がり」になります。会社の「らしさ」は、感性で掘り起こすものではなく、順番に沿って設計できるものです。この記事では、その構造を5つのステップで整理します。
「らしさ」が言語化できないと、何が起きるのか
発信の質は、土台となる言語化の精度で決まります。
採用サイトの文章が「チームワークを大切にしています」「挑戦できる環境です」に終わってしまう会社は多いです。これらは否定できない美徳ですが、どこの会社にも当てはまるため、読者の記憶に残りません。同じことは会社紹介動画にも言えます。映像の質が高くても、伝えるべき「らしさ」が曖昧なまま制作すると、見た人は「きれいな動画だった」で終わります。
問題の根本は、ほとんどの中小企業が「らしさ」を外部に発信するための言葉を、内部で整理したことがないという点にあります。日々の業務で「こうしよう」と判断している基準は確かに存在しているのに、それが文字になっていない。言語化されていないものは、伝えることができません。
「らしさ」の正体:3つの層で考える
「らしさ」は表層・中層・深層の3つに分けると整理しやすくなります。
多くの会社が発信しているのは表層(提供しているサービス・商品の説明)です。「私たちは〇〇を提供しています」というレベルです。これは必要ですが、競合との差別化には直結しません。
中層は「やり方」です。同じサービスを提供していても、どのような手順で、どんな基準で意思決定しているかは会社によって異なります。たとえば「お客様への返答は必ず当日中に行う」「提案は必ず選択肢を3つ用意する」といった行動のパターンがここに当たります。中層を言語化できると、採用広報で「働き方のリアル」を伝えやすくなります。
深層は「なぜそうするのか」という理由です。上の例で言えば、「なぜ当日中に返答するのか」「なぜ3択にするのか」を突き詰めると、その会社が大切にしている価値観や判断基準が見えてきます。深層まで掘り下げると、表面的には似ている競合と明確に分かれてきます。
「らしさ」を掘り起こす5ステップ
以下の手順は、社内で1〜2時間のワークショップを行う形でも、経営者が一人で紙に書く形でも実践できます。
- 「なぜ断ったか」を書き出す
過去に断った依頼、断りたかった依頼、やりたくなかった業務を5〜10件リストアップします。断る理由の中に、その会社が「大切にしていること」が凝縮されています。判断基準:「これはやりたくない」と感じた瞬間の理由を一言で書けるか確認する。 - 「なぜ続けているか」を書き出す
赤字になっても続けていること、手間がかかっても変えないこと、当たり前になっていて気づいていないこだわりをリストアップします。「当たり前」は外部から見ると強い個性になります。判断基準:「やめようと思えばやめられるのに、やめていないもの」に絞ること。 - 「どんな顧客が最もうまくいったか」を振り返る
成果が出た、関係が長続きした、感謝の言葉をもらえた顧客の共通点を書き出します。属性(業種・規模・担当者の性格)と、その案件でとった行動の両方を書くと、次のステップで使いやすくなります。判断基準:「この仕事は得意だった」と感じたものに限定する。 - ステップ1〜3の交差点を探す
3つのリストを並べて読み、共通して出てくる言葉・考え方・行動パターンを抜き出します。たとえば「断った理由」に「スピードより質を優先できない案件は断った」とあり、「続けていること」に「初稿は必ず3案出す」とあり、「うまくいった顧客」に「品質に対して妥協しない担当者の会社」とある場合、交差点には「質に対する誠実さ」という軸が見えてきます。判断基準:3つのリストに共通して現れたキーワードを「らしさの候補」として丸をつける。 - 「らしさ」を一文に圧縮する
「私たちは〔誰の〕〔どんな課題〕を〔どんな方法で〕解決している会社です」という形式に当てはめて書いてみます。この一文が、採用サイトのコピー、会社紹介動画のナレーション、求人広告のリード文の出発点になります。判断基準:社員に読み上げたとき「確かにそうだ」と返ってくるかどうか。社員が「それは違う」と言ったら、ステップ4に戻る。
「らしさ」を発信に乗せるための変換ルール
言語化した「らしさ」をそのまま出しても、読者に伝わるとは限りません。「変換」のひと手間が必要です。
抽象→具体の変換
「品質にこだわっています」という言葉は抽象です。これを「制作物は必ず担当者以外の目で確認してから納品しています」という行動の描写に置き換えると、読者は情景をイメージできます。採用サイトや会社紹介動画での発信は、この「行動の描写」が最も強く伝わります。
価値観→エピソードの変換
「お客様第一」という価値観は文字で書いても信用されにくいです。「あるとき、納期の前日に仕様変更の依頼があった。チームで深夜まで対応し、翌朝の納期に間に合わせた」というエピソードに変換すると、価値観が行動の証拠として機能します。会社紹介動画や採用動画では、このエピソードを映像化することが「伝わる」動画への近道です。
内向き→外向きの変換
「社員が成長できる環境」という表現は、会社側の視点です。求職者の視点に変換すると「入社から1年以内に、一人で顧客折衝を担当するようになります」になります。読者が「自分ごと」として受け取れる言葉かどうかを、発信前に必ず確認してください。
小さく始めるならここから
フルスケールの発信設計は時間がかかります。まず1週間でできることを1つだけ選ぶとすれば、次のどれかです。
- 「断ったことリスト」を10件書く:最も短時間で「らしさの核」が見える作業です。経営者一人でも、社内ミーティングのアジェンダにしても機能します。
- 採用サイトの「会社紹介」文を声に出して読む:「どこの会社にでも当てはまる文章になっていないか」を耳で確認します。違和感を感じた箇所が、言語化し直すべき場所です。
- 最もうまくいった案件を1件、誰かに話す:話しながら自然と出てくる言葉に、言語化されていない「らしさ」が含まれていることが多いです。録音して後から聞き返すと気づきやすくなります。
どれも、ツールや予算は不要です。必要なのは「今まで当たり前だと思っていたことを、改めて言葉にしてみる」という時間だけです。
まとめ
会社の「らしさ」を発信につなげるには、次の3点が土台になります。
- 「らしさ」は感性ではなく構造として設計できる:表層・中層・深層の3層で考え、「断ったこと」「続けていること」「うまくいった顧客」の交差点を探す。
- 言語化した言葉は、そのまま使わず「変換」する:抽象を具体の行動に、価値観をエピソードに、内向きの表現を読者視点の言葉に置き換えると、採用サイトや会社紹介動画で力を発揮する。
- 小さく始めることで、仕組みが育つ:全部を一気にやろうとしない。「断ったことリスト」など、30分でできる一歩から始め、言語化の精度を繰り返し上げていく。
「らしさ」の言語化は、採用サイト・採用動画・会社紹介動画・求人広告のどれを制作する場合でも、クオリティを左右する最上流の作業です。「何を伝えるか」が明確になれば、「どう伝えるか」の精度は格段に上がります。言語化の整理から発信の設計まで、一緒に考えたいという方は、お気軽にご相談ください。