- 2026年10月1日施行の改正により、民間の大規模建築物にも木材利用の努力義務が適用され、建設・不動産業を中心に対応計画の策定が急務となる。
- 対応が遅れると設計変更コストや調達リスクが増大するため、2025年中に社内体制・サプライヤーとの協議を開始することが現実的なタイムラインとなる。
- 木材利用はコスト増と捉えがちだが、脱炭素経営・ESG評価向上・補助金活用など経営メリットと結びつけた戦略的アプローチが競合他社との差別化につながる。
はじめに――2026年10月1日、何が変わるのか
2026年10月1日、改正「公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律」(木材利用促進法)が施行されます。これまで主に公共建築物を対象としていた木材利用の取り組みが、民間の大規模建築物にまで対象を拡大する点が最大の変更点です。建設・不動産・製造・小売業など、幅広い業種の企業が対応を迫られるこの改正について、実務担当者の視点で整理・解説します。
木材利用促進法とは――改正前の制度を振り返る
木材利用促進法は2010年に制定され、国や地方公共団体が整備する公共建築物について、原則として木造化・木質化を図ることを義務づけてきました。2021年の改正(公布2021年・段階施行)では、法律名から「公共建築物等」の文言が外れ、「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」へと刷新されました。この名称変更が示すとおり、法の目的は「公共建築物の木造化」から「日本全体の脱炭素実現手段としての木材活用」へと大きく転換しています。
そして2026年10月1日の施行分では、いよいよ民間の大規模建築物に関する努力義務規定が本格的に動き始めます。企業は「関係ない」と傍観できる状況ではなくなっています。
今回の改正で何が変わるのか――3つのポイント
① 民間大規模建築物への努力義務の拡大
改正法では、一定規模以上の民間建築物を新築・増改築する事業者に対し、木材利用を図るよう努める義務が課されます。「努力義務」であるため罰則はありませんが、国・自治体から報告徴収や勧告の対象になる可能性があります。また将来的に義務水準が引き上げられることも視野に入れた準備が必要です。
② 建築物木材利用計画の策定促進
改正に伴い、建築主(施主)が「建築物木材利用計画」を作成・公表することが推奨されます。大手企業や上場企業では、ESG情報開示の文脈でこの計画の有無が投資家・取引先から問われるケースが増えると予想されます。任意であっても早期に策定することが、対外的な信頼性向上につながります。
③ 国・自治体による支援措置の拡充
努力義務と同時に、木材利用に取り組む民間企業への補助金・税制優遇・技術支援が拡充されます。林野庁や国土交通省が所管する各種支援制度を積極的に活用することで、初期コストの一部を軽減できます。施行前に支援メニューを確認しておくことが重要です。
対象となる企業・建築物の目安
現時点で公表されている政令・告示の情報をもとにすると、主な対象の目安は以下のとおりです。ただし詳細な基準は政令で定められるため、最新の官報・林野庁ガイダンスを必ず確認してください。
- 対象建築物の規模:延床面積2,000㎡以上の新築・大規模改修(目安)
- 対象用途:事務所・店舗・工場・倉庫・ホテル・病院など幅広い用途
- 対象事業者:建築主(施主)となる企業全般。ゼネコン・設計事務所も支援義務を負う場面あり
特に影響が大きい業種として、建設・不動産・小売(大型店舗)・物流(倉庫)・ホテル・ヘルスケア(病院・介護施設)が挙げられます。自社の建築計画を洗い出し、該当する案件がないか早急にリストアップしましょう。
実務対応のロードマップ――今から施行日まで何をすべきか
Step 1:社内横断チームの立ち上げ(2025年内)
木材利用促進法への対応は、建設・設計部門だけの問題ではありません。調達・法務・経営企画・広報(ESG担当)を含む横断チームを立ち上げることが最初のステップです。担当窓口が不明確なまま施行日を迎えると、設計変更の対応が後手に回りコスト増を招きます。
Step 2:建築計画の棚卸しと影響範囲の特定(2025年内)
2026年以降に着工・申請予定の建築プロジェクトをリストアップし、改正法の対象に該当するか否かを確認します。対象プロジェクトに対しては、設計段階で木材利用の検討が必要なため、設計会社・ゼネコンへの早期通知が不可欠です。設計完了後の変更は費用と工期に甚大な影響を与えます。
Step 3:木材サプライヤー・設計パートナーとの協議(2025年〜2026年前半)
CLT(直交集成板)・LVL(単板積層材)など、構造用途に使用できる木質材料の調達ルートと価格を事前に把握しておきましょう。国産材の供給は地域によって偏りがあり、人気の材料は需要増加で調達難になる可能性があります。複数のサプライヤーと早期に接触し、優先調達枠を確保することが現実的なリスクヘッジです。
Step 4:建築物木材利用計画の策定・公表(施行日前後)
法的義務ではなくとも、計画を策定し自社ウェブサイトや統合報告書で公表することで、ESG・サステナビリティ情報開示の充実につながります。特に上場企業や大企業では、機関投資家・取引金融機関からの評価向上が期待できます。
Step 5:補助金・支援制度の申請(随時)
林野庁・国土交通省・各都道府県が提供する木材利用促進に関連した補助制度を積極的に活用しましょう。施行前後でメニューが改定されることが多いため、定期的に最新情報を確認する体制を整えることが大切です。
よくある誤解と注意点
誤解①「努力義務だから無視しても問題ない」
努力義務は罰則がない一方で、国や自治体が勧告・公表を行う権限を持つ場合があります。また将来的な義務強化の布石でもあるため、「今は関係ない」という姿勢は中長期的なリスクを積み上げることになります。
誤解②「木造にするとコストが上がるだけ」
設計・施工ノウハウの蓄積が進んだ現在、一定条件下では木造・木質化がRC造と遜色ないコストで実現できるケースも増えています。また、補助金活用・炭素固定によるカーボンクレジット・ESG評価向上という間接的なコスト回収効果も含めて総合的に試算することが重要です。
誤解③「建設会社に任せておけばよい」
努力義務の主体は建築主(施主)である企業です。設計・施工を外部に委託していても、法的な立場としての責任は施主にあります。発注時の仕様書・契約書に木材利用の要件を明記し、履行を確認するプロセスを社内に組み込む必要があります。
木材利用を経営戦略に組み込むメリット
規制対応という後ろ向きな視点だけでなく、木材利用を積極的な経営戦略として活用する視点も重要です。以下に代表的なメリットを整理します。
- 脱炭素・GHG削減:木材はCO₂を固定した材料であり、建物のライフサイクルアセスメント(LCA)でScope 3排出量の削減に貢献します。
- ESG・サステナビリティ評価:TCFD・GRIなどの開示フレームワークにおける「物理的リスクと機会」の対応実績として評価されます。
- ブランドイメージ:木の空間は利用者の心理的満足度を高めるとのエビデンスが増えており、オフィス・商業施設の差別化要素になります。
- 地域貢献:国産材を優先利用することで地域林業の活性化に貢献でき、地方自治体との連携強化や地域に根ざしたブランディングに活用できます。
改正法対応のチェックリスト
実務担当者がすぐに使えるチェックリストをまとめます。施行前の自社の準備状況確認にご活用ください。
- ☐ 社内に木材利用促進法改正の対応窓口・担当チームを設置している
- ☐ 2026年以降に着工予定の建築プロジェクトを洗い出し、対象該当性を確認している
- ☐ 設計パートナー・ゼネコンに改正対応の必要性を伝え、協議を開始している
- ☐ 木質材料(CLT・LVL・製材等)の調達先と価格帯を把握している
- ☐ 活用可能な補助金・支援制度を調査している
- ☐ 建築物木材利用計画の策定を検討している
- ☐ ESG情報開示(統合報告書・サステナビリティレポート)への反映を検討している
まとめ――施行まで1年以内、動き出すなら今
2026年10月1日の施行まで、残り時間はそれほど多くありません。設計・調達・社内体制の整備には最低でも1〜2年のリードタイムが必要であり、今動き始めることが最もコスト効率の高い対応といえます。
木材利用促進法改正は、一見すると建設・不動産業界だけの話に見えますが、大規模な建物を持つあらゆる業種に関わる重要な法制度です。「罰則がないから後回し」ではなく、脱炭素経営・ESG戦略・コスト管理の観点から積極的に取り組む姿勢が、企業の長期的な競争力を支えることになります。
自社の建築計画への影響範囲の特定、対応戦略の立案、補助金活用の検討など、具体的な一歩を踏み出すにあたってご不明な点やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。