- 2026年10月1日から常時雇用300人超の企業に育休取得率の公表義務が拡大——採用ブランドと法令遵守の両面で早期対応が不可欠
- 短時間勤務の代替措置拡充・介護両立支援の個別周知義務化など、就業規則と運用フローの見直しは2025年度中の着手が現実的なスケジュール
- 法改正への対応は「コスト」ではなく人的資本への投資——Z世代採用・離職防止・ESG評価に直結する経営戦略として位置づけることが競争優位につながる
2026年10月1日施行——なぜ今、育児・介護休業法が変わるのか
少子化が加速する日本において、政府は「誰もが育児と仕事を両立できる社会」の実現を最重要課題の一つと位置づけています。2021年の改正育児・介護休業法は段階的に施行されてきましたが、2026年10月1日にはさらなる改正が施行予定です。
この施行日は「木曜日」。年度の区切りでも月初でもない日付が選ばれた背景には、企業が4月・10月の人事サイクルに合わせて就業規則を整備しやすくする配慮があります。人事担当者・管理職・育児中の従業員のいずれにとっても、「何がどう変わるのか」を正確に把握しておくことが、実務トラブルを防ぐ最初の一歩です。
本記事では、改正の背景・主なポイント・企業の実務対応を体系的に解説します。
改正の3つの柱——何がどう変わるのか
①育休取得状況の公表義務が中小企業にも拡大
これまで常時雇用労働者1,000人超の企業に課されていた育休取得率の公表義務が、300人超の企業へと対象が広がります。公表媒体は厚生労働省が運営する「両立支援のひろば」などが想定されており、数値のみならず取得促進に向けた取り組みの開示も求められる方向性が示されています。
- 対象:常時雇用労働者300人超の事業主
- 公表項目:男女別育休取得率、または育休取得日数の平均
- 公表タイミング:年1回以上
採用市場では「育休取得率」が求職者の企業選びに直結する指標になっており、特にZ世代・ミレニアル世代への訴求に大きく影響します。数値が低い企業は、改正前から取得促進策を打っておくことが急務です。
②柔軟な育休取得を支える「育児期短時間勤務」の拡充
子が3歳未満の間、企業は短時間勤務制度(1日原則6時間)を設けることが義務づけられています。改正後は、この制度に加えて「短時間勤務に代えうる措置」のメニューを拡充し、テレワーク・フレックスタイム・始業終業時刻の繰上げ繰下げなどを組み合わせた選択肢を労働者が選べる仕組みの整備が求められます。
就業規則の見直し・勤怠システムの改修・管理職への周知研修——これらを2026年10月までに完了させるには、逆算すると2025年中に着手するのが現実的なスケジュールです。
③介護離職防止に向けた「仕事と介護の両立支援」の強化
「育児」だけでなく「介護」についても実質的な改正が入ります。企業には以下の対応が新たに義務または努力義務として課される見通しです。
- 40歳到達者への両立支援制度の個別周知・意向確認
- 介護休業・介護両立支援制度の利用しやすい環境整備
- 介護に関する研修・相談窓口の設置(努力義務)
2030年には団塊ジュニア世代が50代後半を迎え、「ダブルケア」(育児と介護の同時進行)を抱える従業員が急増すると予測されています。介護を理由とした離職は企業にとって即戦力の喪失を意味し、採用・教育コストの観点からも看過できません。
企業規模別・実務対応チェックリスト
300人超〜1,000人以下の企業(今回から公表義務対象)
今回の改正で最も影響を受けるのがこの規模帯の企業です。以下を2026年10月1日までに整備してください。
- □ 育休取得率の集計・算出フローの構築
- □ 「両立支援のひろば」への登録・数値入力体制の確立
- □ 育休取得率が目標値を下回る場合の改善計画の策定
- □ 就業規則への短時間勤務代替措置の追加
- □ 40歳到達者への介護両立支援制度の周知フロー整備
1,000人超の企業(既存義務のアップデート)
- □ 公表項目・フォーマットの最新基準への更新
- □ 短時間勤務代替措置の選択肢拡充と周知
- □ 介護関連の個別面談フローの整備
- □ 管理職向け研修内容の見直し(法改正内容の反映)
300人以下の企業(努力義務・先手対応が差別化に)
- □ 育休取得実績の社内集計開始(公表は任意)
- □ 求人票・採用サイトへの両立支援制度の掲載
- □ 介護両立支援の相談窓口(担当者の指定)
管理職が知っておくべき「育休ハラスメント」リスク
法改正に伴い、マタハラ・パタハラ(育休取得を阻害する言動)に対する行政指導・是正勧告が強化される方向にあります。管理職が無意識のうちに行いがちなリスク行動を整理しておきましょう。
「今は忙しい時期だから、育休は短くしてもらえると助かる」
「復帰後すぐに残業対応できる?できないならポジションを変えるしかない」
「男性で育休を取る人はこの部署では前例がない」
これらの発言は、程度によっては不利益取扱いの禁止規定やハラスメント防止措置義務に抵触するリスクがあります。「悪意がなかった」は免責事由になりません。研修・1on1・チームミーティングの場でガイドラインを共有しておくことが、企業リスク管理の基本です。
採用・エンゲージメントへの波及効果
育休取得率の公表義務化は、単なるコンプライアンス対応を超えた意味を持ちます。
採用面では、就活・転職活動中のZ世代が企業を比較する際、給与や事業内容と並んで「育休・時短の実績」を重視するケースが増えています。厚生労働省の調査でも、20〜30代が転職先を選ぶ際に「仕事と育児の両立支援」を重視する割合は年々上昇しています。
エンゲージメント面では、育休から復帰した従業員が「会社に支えてもらえた」と感じることで、定着率・生産性・会社へのロイヤルティが向上するという報告が複数の調査で示されています。制度の有無より「制度を使いやすい職場文化があるか」が鍵であり、その文化醸成こそ管理職の最大の役割です。
よくある疑問Q&A
Q1. 育休取得率の「分母」は何ですか?
育休取得率は「対象期間中に育児休業等を取得した労働者数 ÷ 対象期間中に配偶者が出産した労働者数(男性の場合)または出産した労働者数(女性の場合)」で算出します。分母・分子の定義を社内で統一しておくことが、集計ミス防止の第一歩です。
Q2. パート・アルバイトも対象になりますか?
改正後も「常時雇用労働者数」にはパート・アルバイトを含む場合があります。有期雇用労働者の育休取得要件は「引き続き雇用された期間が1年以上」という要件が廃止(2022年改正)されており、実質的に対象が広がっています。雇用形態ごとに取得要件を整理した社内一覧の作成を推奨します。
Q3. 就業規則はいつまでに改定が必要ですか?
施行日である2026年10月1日から適用できるよう、遅くとも2026年夏頃(8〜9月)には労働基準監督署への届出を完了させることが望ましいです。就業規則変更は労働者代表の意見聴取・周知プロセスが必要なため、社内手続きを含め逆算して2025年度中に原案作成を始めることを推奨します。
Q4. 違反した場合のペナルティは?
公表義務違反の場合、厚生労働大臣による報告徴収・勧告があり、勧告に従わない場合は企業名の公表も想定されています。直接の罰則金よりも「企業名公表」による採用・ブランドへのダメージが実質的なリスクになります。
2030年を見据えた「両立支援」の戦略的位置づけ
少子化・人口減少が不可逆的に進む日本では、労働力の確保が経営の最重要課題になりつつあります。2030年には生産年齢人口がさらに減少し、優秀な人材を「採れる・定着させる・活躍させる」企業が競争優位を確保します。
育児・介護休業法への対応は「コスト」ではなく、人的資本への投資として捉え直すことが重要です。ESG投資の文脈でも「S(社会)」の評価軸として従業員の両立支援実績が注目されており、上場企業はもちろん、非上場の中小企業にとっても取引先・金融機関からの信頼に直結する時代になっています。
2026年10月の施行を「法律を守るための対応」で終わらせず、人材戦略の転換点として活用することが、中長期的な企業成長につながります。
まとめ——2026年10月1日までにやるべき3つのこと
本記事の要点を3点に絞ってまとめます。
- 対象企業の確認と公表フローの構築——常時雇用300人超なら育休取得率の公表義務が新たに発生します。集計・算出・公表の一連フローを今すぐ設計してください。
- 就業規則・制度の見直し——短時間勤務代替措置の選択肢拡充と、介護両立支援の周知フロー整備を2026年夏までに完了させてください。
- 管理職研修と職場文化の醸成——制度を「使える文化」に変えるのは管理職の行動です。ハラスメントリスクの理解と心理的安全性の確保を研修に組み込んでください。
法改正への対応は、正確な情報と早めの着手が何より重要です。就業規則の見直し・社内研修の設計・取得率向上施策など、具体的な進め方についてご不明な点があれば、お気軽にお問い合わせ・ご相談ください。